高次脳機能障害で障害年金はもらえる?認定基準と診断書・申請のポイント
はる社会保険労務士事務所の特定社会保険労務士の宮岡です。
日頃から障害年金のご相談・申請支援に携わっています。
高次脳機能障害は、障害年金の認定対象となる障害です。 記憶障害や注意障害、物事を計画して進めることの難しさなどにより、日常生活や仕事に一定以上の制限があり、初診日や保険料納付などの要件を満たす場合には、障害年金の請求を検討できます。
高次脳機能障害は外見から分かりにくく、会話や歩行ができていても、日常生活では周囲の援助を必要としている場合があります。また、記憶力や理解力の低下、言葉がうまく出てこないことなどにより、ご本人様だけでは障害年金の相談や手続きを進めることが難しい場合もあります。
さらに、脳出血や脳梗塞、脳腫瘍、事故による脳外傷など、原因となった病気やけがによって受診経過が異なり、手足の麻痺や失語症などが残っていることもあります。
この記事では、高次脳機能障害の認定基準、日常生活や就労状況の評価、診断書の依頼先、初診日・障害認定日の考え方など、障害年金の請求を検討する際のポイントを解説します。
目次
高次脳機能障害は、生活や仕事への支障から判断されます
高次脳機能障害は、脳外傷や脳血管疾患、脳腫瘍などによって脳が損傷し、記憶、注意、判断、行動などに支障が生じる障害です。
障害年金では、精神の障害のうち「症状性を含む器質性精神障害」に含まれます。ただし、高次脳機能障害と診断されたことだけで受給が決まるわけではありません。原因となった傷病、症状や治療の経過、実際の日常生活の状況などを踏まえて総合的に判断されます。
障害認定基準に示されている各等級の状態を、要点に絞ると次のようになります。
- 1級:高度の認知障害や精神神経症状などにより、常時の援助が必要な状態
- 2級:認知障害や精神神経症状などが著しく、日常生活に著しい制限がある状態
- 3級:認知障害などにより、労働に著しい制限がある状態など
これは認定基準の例示を簡単にまとめたものです。個別の等級を判定する一覧ではありません。また、障害基礎年金は1級・2級、障害厚生年金は1級・2級・3級が対象となります。
参考:日本年金機構「障害認定基準 第8節/精神の障害」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-1-8.pdf
高次脳機能障害では、知能検査や神経心理学的検査などの結果が、障害の状態を把握するための参考になります。しかし、検査結果や診断書の日常生活能力の評価だけで、障害等級が自動的に決まるわけではありません。
例えば、診察室では短い会話ができていても、予定を管理したり、複数の指示を理解して行動したり、金銭管理や社会的な手続きを一人で進めたりすることが難しい場合があります。
そのため、検査結果に加えて、実際の生活環境や必要な援助、就労状況などを確認することが大切です。障害者手帳の等級や交通事故の後遺障害等級も、そのまま障害年金の等級に置き換えられるわけではありません。
参考:日本年金機構「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」等
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20160715.html
症状名だけでなく、日常生活で起きていることを整理します
高次脳機能障害では、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが現れることがあります。しかし、「物忘れがある」「集中できない」といった症状名だけでは、生活への影響が十分に伝わらない場合があります。
障害年金の請求では、どのような場面で困り、誰から、どの程度の援助を受けているのかを整理することが重要です。
| 主な症状 | 日常生活で確認したいことの例 |
|---|---|
| 記憶障害 | 通院の予定や服薬を覚えていられるか。ご家族様による声かけや管理が必要か |
| 注意障害 | 調理などの作業を安全に続けられるか。注意がそれてしまい、見守りが必要になるか |
| 遂行機能障害 | 家事や買い物の段取りを考え、最後まで進められるか。一つずつ指示してもらう必要があるか |
| 社会的行動障害 | 感情や行動の調整、対人関係にどのような支障があり、周囲がどのように対応しているか |
これらは生活状況を整理するための例であり、当てはまる項目の数によって等級が決まるわけではありません。
例えば、ご本人様が一人で外出していても、実際にはご家族様が予定を伝え、持ち物を準備し、出発時刻を繰り返し知らせている場合があります。「外出できる」という結果だけでなく、その行動がどのような援助や工夫によって成り立っているかを確認する必要があります。
参考:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害を理解する」
https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
ご本人様が気づきにくい変化は、ご家族様の説明も役立ちます
高次脳機能障害では、ご本人様が障害や生活上の変化を十分に認識しにくいことがあります。ご本人様は「以前と変わらず生活できている」と感じていても、実際にはご家族様が予定や金銭を管理し、家事や外出の際に繰り返し声をかけている場合もあります。
また、記憶力や理解力、判断力の低下、言葉がうまく出てこないことなどによって、障害年金の手続きをご本人様だけで適切に進めることが難しい場合もあります。 受診歴を思い出して整理する、書類の内容を理解する、医療機関や年金事務所に状況を説明するといったこと自体に援助を必要とする場合があるためです。
そのため、ご本人様の意思を尊重しながら、ご家族様や支援者が相談に同席し、受診歴や生活状況の確認、医療機関への連絡などを支えることが望まれる場合も少なくありません。
生活上の困難については、難しい記録を作成する必要はありません。「いつ、何をしようとして、どこで困り、どのような手助けをしたか」を分かる範囲で整理しておくと、主治医にも実態が伝わりやすくなります。
こうした情報は、診断書を依頼する直前だけでなく、普段の診療から共有しておくことが大切です。診断や検査結果の評価、診断書の記載は、医師の医学的な判断に基づきます。
参考:国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害に関するよくあるご質問」
https://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/qa/
日常生活能力や援助の必要性については、「障害年金の精神の診断書とは?日常生活能力や就労状況のポイント」でも解説しています。
働いている場合は、雇用形態だけで判断しません
高次脳機能障害があっても、一般企業で働いている方や、休職後に職場へ復帰している方もいらっしゃいます。一般雇用で働いているという理由だけで、一律に障害年金の対象外となるわけではありません。
ただし、就労状況は障害の程度を判断するうえで重要です。実際にどのような仕事を行い、どの程度の援助や配慮を受けながら働いているかを確認する必要があります。
例えば、発症前と同じ職場へ復帰していても、仕事内容や責任の範囲が大きく変わっている場合があります。以前は複数の業務を自分で判断して進めていた方が、現在は限られた作業を担当し、周囲による指示や確認を受けながら働いている場合などです。
実務上は、次のような点を整理します。
- 発症前と比べて、担当業務や責任の範囲がどう変わったか
- 手順の説明、繰り返しの声かけ、作業後の確認をどの程度受けているか
- 勤務時間の短縮や休憩、欠勤、休職などの状況
- 対人関係や予定外の出来事への対応で生じている支障
- 帰宅後や休日の生活で必要となっている援助
一方、長期間にわたり安定して就労を継続している場合には、その就労実態も障害の程度を判断するうえで重要な事情となります。 職場で配慮を受けていることだけで、障害年金の認定が決まるわけでもありません。
「復職した」「一般雇用で働いている」という事実だけではなく、実際の仕事内容と支援の実態、日常生活への影響を踏まえて検討することが大切です。
参考:日本年金機構「障害認定基準 第8節/精神の障害」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-1-8.pdf
診断書は、様式と依頼する医師を確認します
記憶障害、注意障害、遂行機能障害などについて請求する場合には、基本的に障害年金の「精神の障害用」の診断書を使用します。会社へ提出する休職用診断書や、障害者手帳の申請に使用する診断書とは異なる書類です。
また、同じ原因傷病によって手足の麻痺や失語症なども残っている場合には、別の様式の診断書が必要となることがあります。どの障害について請求するか、どの様式を使用するか、どの医師へ依頼するかを確認してから準備することが重要です。
精神科以外の主治医が作成できる場合もあります
精神の障害用診断書は、原則として精神保健指定医または精神科を標ぼうする医師が作成します。ただし、高次脳機能障害では、脳神経外科、脳神経内科、リハビリテーション科などを専門とする医師が主治医となっている場合もあります。
日本年金機構では、こうした医師であっても、精神・神経障害の診断または治療に従事している場合には、精神の障害用診断書を記入できる取扱いが示されています。
したがって、精神科へ通院していないという理由だけで診断書の作成を諦める必要はありません。まずは現在の主治医に障害年金の請求を検討していることを伝え、作成していただけるか確認することが考えられます。
また、発症直後の治療を担当した医師と、退院後の生活状況を把握している医師が異なる場合もあります。診療科だけでなく、必要な時期の障害状態を把握し、診断書に記載できる医師であるかという点も大切です。
参考:日本年金機構「かけはし別冊 障害年金講座③〈診断書〉」
手足の麻痺や失語症がある場合は、別の様式も確認します
高次脳機能障害の原因となった脳の病気やけがによって、手足の麻痺や、言葉の理解・表現に支障が出る失語症などが残る場合もあります。
| 主な障害 | 確認する診断書の例 |
|---|---|
| 記憶障害・注意障害・遂行機能障害など | 精神の障害用 |
| 手足の麻痺・運動機能の障害など | 肢体の障害用 |
| 失語症などの言語機能の障害 | 言語機能の障害に対応した様式 |
同じ脳の病気やけがによって生じた障害でも、すべてを一つの診断書で評価できるとは限りません。 特に失語症は、音声又は言語機能の障害に関する認定基準でも取り扱われています。
複数の障害があるからといって、それぞれの等級を単純に足し合わせるわけでもありません。精神・肢体・言語の障害の関係や認定方法を確認し、必要な診断書を準備します。
参考:日本年金機構「障害認定基準 第6節/音声又は言語機能の障害」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-1-6.pdf
参考:日本年金機構「障害認定基準 第9節/神経系統の障害」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-1-9.pdf
診断書の種類や依頼する時期については、「障害年金の診断書とは?種類や注意点を解説」もご参照ください。
また、障害年金の請求では、診断書と併せて「病歴・就労状況等申立書」などを準備します。
高次脳機能障害では、ご本人様だけで発症から現在までの受診歴や生活状況を整理することが難しい場合があります。そのため、急性期の治療、転院、リハビリテーション、退院後の生活、休職・復職の経過などについて、ご本人様の意思を尊重しながら、ご家族様等の協力や医療機関の記録も参考にして整理することが大切です。
特に、発症前後で生活や仕事にどのような変化が生じたのか、どのような援助を必要とするようになったのかを具体的に確認します。診断書と申立書は役割が異なりますが、受診経過や生活状況などに不自然な食い違いがないかも確認する必要があります。
申立書の役割と作成方法については、「障害年金の病歴・就労状況等申立書とは?書き方・作成のポイント」でも解説しています。
初診日は、高次脳機能障害と診断された日とは限りません
障害年金の初診日は、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日です。
高次脳機能障害の場合、高次脳機能障害という診断名がついた日ではなく、原因となった病気やけがの初診日を確認することが基本となります。
例えば、脳出血で救急搬送され、急性期病院で治療を受けた後、リハビリテーション病院へ転院し、その後に高次脳機能障害と診断された場合です。このような場合には、原則として脳出血について最初に診療を受けた日から初診日を確認します。
事故による脳外傷の場合も、事故後に最初に診療を受けた日などを確認します。脳腫瘍などでは長期間の治療経過や再発によって検討が複雑になることもあるため、原因傷病の受診歴を整理する必要があります。
実務上は、最初に治療を受けた医療機関の記録や、その後の転院先の記録が重要になる場合があります。初診日は、障害基礎年金と障害厚生年金のどちらが対象となるか、保険料納付要件を満たすかなどにも関わるため、現在の勤務先ではなく、初診日当時の加入状況を確認します。
また、障害認定日は原則として初診日から1年6か月を経過した日ですが、障害の種類によっては早く認められる場合があります。
例えば、脳血管障害による機能障害が残り、初診日から6か月を経過した日以降に、医学的にそれ以上の機能回復がほとんど望めないと判断された場合です。ただし、脳血管障害が原因なら必ず6か月で認められるというものではなく、高次脳機能障害にも一律に適用できるわけではありません。
高次脳機能障害では、リハビリテーションや生活上の工夫によって状態が変化する場合もあります。障害の種類や症状の経過を踏まえて、障害認定日を確認する必要があります。
参考:日本年金機構「障害認定基準 第1/一般的事項」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/1.pdf
参考:日本年金機構「障害認定基準 第9節/神経系統の障害」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-1-9.pdf
また、障害認定日当時に遡る請求を検討する場合には、その時点の障害状態を確認できるかも重要です。現在の生活上の困難が、そのまま過去の障害認定日にも当てはまるわけではありません。
当時の生活や就労状況、診療記録などを確認し、必要な時期の診断書を取得できるかを検討します。障害認定日からの請求が難しくても、現在の状態が要件を満たしていれば、事後重症による請求を検討できる場合があります。
事後重症請求では原則として請求日の翌月分から支給されるため、請求時期にも注意が必要です。
初診日の確認方法は、「障害年金の初診日はいつ?確認するときのポイント」でも解説しています。
まとめ
高次脳機能障害は、障害年金の認定対象となる障害です。ただし、診断名だけで受給が決まるわけではなく、記憶や注意、物事の段取りなどの障害が、日常生活や仕事にどのような支障を及ぼしているかを確認する必要があります。
また、ご本人様が障害の影響によって生活状況や受診歴を十分に説明できず、請求手続きを一人で進めることが難しい場合もあります。 そのような場合には、ご本人様の意思を尊重しながら、ご家族様や支援者と一緒に必要な情報を整理することが大切です。
申請を検討する際は、原因となった傷病の初診日、日常生活や就労の状況、障害認定日、必要な診断書の様式と依頼先などを確認します。手足の麻痺や失語症などが残っている場合には、複数の障害についての確認が必要となることもあります。
すべての書類がそろっていなくても、ご相談いただけます。
少しでもご参考にしていただけましたら幸いです。
高次脳機能障害による生活や仕事への支障があり、障害年金の請求についてお悩みがございましたら、ご本人様・ご家族様からお気軽にご相談ください。