人工透析で障害年金はもらえる?認定基準と初診日・申請時期
はる社会保険労務士事務所の特定社会保険労務士の宮岡です。
日頃から障害年金のご相談・申請支援に携わっています。
「人工透析を始めましたが、障害年金は受け取れるのでしょうか」
人工透析を継続している方は、障害年金では原則として2級の認定対象です。 働いていることだけで対象外になるわけではありません。
一方、実際の請求では、障害の程度とは別に、原因となった病気の初診日を特定し、証明することが重要になります。
例えば、糖尿病性腎症によって透析を始めた方は、10年、20年以上前から糖尿病の治療を受けていることがあります。当時の病院が廃院していたり、カルテが残っていなかったりすることも珍しくありません。
しかし、最初の病院で初診日の証明書を取得できなくても、後に受診した病院の記録や健康診断結果などを確認し、請求につなげられる場合があります。
この記事では、人工透析の認定基準と申請時期に加え、古い初診日をどのように確認するか、カルテが残っていない場合には何が手掛かりになるかを、実務の視点から解説します。
目次
人工透析は、障害年金では原則2級の認定対象です
日本年金機構の障害認定基準では、人工透析療法を行っている場合、原則として障害等級2級とされています。血液透析だけでなく、腹膜透析も対象です。
合併症の程度や検査結果、日常生活の状況などによっては、1級に認定される場合もあります。
ただし、透析を受けていることと、障害年金を受給するための要件をすべて満たしていることは別です。原則2級というのは障害の程度に関する基準であり、初診日や保険料納付要件なども確認する必要があります。
特に重要なのは、次の3点です。
- 初診日:原因となった病気で初めて医師の診療を受けた日
- 初診日当時の年金加入状況・保険料納付要件:どの年金が対象になるか、初診日の前日時点で保険料納付要件を満たしているか
- 請求方法・時期:障害認定日当時の状態による請求か、現在の状態による事後重症請求か
例えば、現在は厚生年金に加入して働いていても、原因傷病の初診日には国民年金に加入していた場合があります。どの年金を請求できるかは、現在の勤務先だけでは決まりません。
なお、20歳前の年金未加入期間に初診日がある場合には、保険料納付要件は問われません。
参考:日本年金機構「障害認定基準 第12節/腎疾患による障害」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/ninteikijun/20140604.files/3-1-12.pdf
働きながら透析を続けている場合
人工透析を受けながら働いている方もいらっしゃいます。透析療法を行っている場合は原則2級とする基準があるため、働いていることだけを理由に請求を諦める必要はありません。 年金を受け取るために退職しなければならない制度でもありません。
診断書には透析の実施状況などを医師が記載します。透析日の勤務調整、体調不良時の休憩、ご家族様による通院の援助などがあれば、実際の状況を整理しておくとよいでしょう。
なお、20歳前の年金未加入期間に初診日がある障害基礎年金には、ご本人様の前年所得による支給制限があります。一般的な就労・収入との関係は、「働いていても障害年金はもらえる?」でも解説しています。
参考:日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20200805.html
初診日は、透析を始めた日とは限りません
障害年金の初診日は、障害の原因となった病気について、初めて医師の診療を受けた日です。人工透析を始めた日や、現在の透析クリニックを初めて受診した日とは限りません。
人工透析に至るまでには、原因となった病気について長年治療を受けていることがあるためです。
糖尿病性腎症では、糖尿病の初診日が重要です
例えば、糖尿病の治療を長年続け、その後、糖尿病性腎症から腎不全となり、人工透析を始めた場合です。
糖尿病と糖尿病性腎症は、障害年金では通常、相当因果関係のある一連の傷病として取り扱われます。そのため、腎不全と診断された日ではなく、糖尿病で最初に医療機関を受診した日まで遡って確認することになります。
治療経過の一例として、次のような場合が考えられます。
- 約20年前:糖尿病で内科を受診し、治療を開始
- その後:通院や転院を繰り返しながら治療を継続
- 数年前:糖尿病性腎症によって腎機能が低下
- 現在:人工透析を開始
この場合、透析開始日より約20年前の受診が初診日に関係することになります。
一方、腎不全の原因が慢性腎炎や多発性嚢胞腎などであれば、その病気についての受診歴を確認します。幼少期から腎疾患を指摘され、その後に糖尿病も発症している場合などは、現在の腎不全がどの傷病と関係しているのかを慎重に整理する必要があります。
単に最も古い受診を初診日とするのではなく、原因傷病について主治医の説明を確認し、当時の診療経過をたどることが重要です。
参考:厚生労働省掲載「障害基礎年金お手続きガイド」(9ページ・傷病の相当因果関係)
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001558154.pdf#page=9
初診の病院にカルテが残っていない場合は?
人工透析の請求で、実務上の大きな課題となりやすいのが、何年も前の初診日をどのように証明するかという点です。
特に糖尿病性腎症では、最初の受診から透析まで10年、20年以上経過していることがあります。当時の医療機関が廃院していたり、カルテが廃棄されていたりするケースもあります。
しかし、最初の病院で「受診状況等証明書」を取得できなくても、直ちに請求できなくなるわけではありません。その後の医療機関や別の資料に、過去の受診状況を示す記録が残っていないかを確認します。
転院先のカルテや紹介状を確認します
最初のクリニックにカルテがなくても、次に受診した病院の記録に、以前の受診先や治療開始時期が記載されていることがあります。
例えば、転院先のカルテや紹介状に、以前の病院名、糖尿病と診断された時期、治療薬の開始時期などが記載されている場合です。
こうした記録は、初診日を確認する重要な手掛かりになります。請求の5年以上前に医療機関が作成したカルテ等に、別の医療機関での初診日が記載されている場合には、その記録を用いて初診日の確認を検討できる取扱いもあります。
ただし、後の病院に古い受診歴が記載されているだけで、必ず初診日が認められるわけではありません。いつ作成された記録なのか、どのような根拠で記載されているのか、ほかの資料と整合しているかを確認する必要があります。
健康診断や勤務先の記録が手掛かりになることもあります
医療機関の記録以外では、過去の健康診断結果や勤務先の記録が役立つことがあります。
例えば、過去の健康診断結果に「治療継続」などの記載があれば、その時点で糖尿病の治療を受けていたことを確認する手掛かりになります。
また、健診結果と後に受診した病院の記録を照らし合わせることで、初診時期をより具体的に確認できる場合があります。
当事務所でも、初診時のカルテが残っていない糖尿病性腎症の方について、後に受診した病院の記録と過去の健診結果を照合して初診時期を整理し、障害年金の認定に至った事例があります。
そのほか、健康保険の給付記録、診察券、過去の診断書、医療機関の領収書なども確認する価値があります。
ただし、健康診断を受けた日が、そのまま初診日になるわけではありません。 初診日は原則として治療目的で初めて医療機関を受診した日です。初診時の医療記録が得られず、健診結果から医学的に直ちに治療が必要だったと認められる場合などには、一定の条件のもとで健診日が初診日として認められる取扱いもあります。
初診日の年月日を特定できない場合
長い年月が経過していると、資料を集めても初診日の具体的な年月日を特定できないことがあります。
初診日の年月日を特定できなくても、複数の資料から一定の期間内に初診日があると確認できれば、請求を進められる場合があります。
例えば、その期間を通じて同じ公的年金制度に加入し、期間中のどの時点でも保険料納付要件を満たしている場合などです。ただし、期間を申し立てるだけで認められるわけではなく、期間の始まりと終わりを裏付ける資料や年金加入記録などを確認する必要があります。
初診の病院で受診状況等証明書を取得できない場合には、「受診状況等証明書が添付できない申立書」を作成し、証明書を取得できない理由を説明するとともに、後に受診した医療機関の証明書や客観的な資料を確認します。
なお、この書類と、発病から現在までの経過を整理する「病歴・就労状況等申立書」は別のものです。いずれも、医療機関の記録や診断書との整合性を確認して作成する必要があります。
カルテがないからといって、すぐに諦める必要はありません。一方、申立書を出せば必ず初診日が認められるわけでもありません。 まずは残っている資料を確かめることが重要です。
初診日の確認については、「障害年金の初診日はいつ?確認するときのポイント」でも解説しています。
参考:日本年金機構「障害年金の初診日証明書類のご案内」
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/0326.pdf
参考:厚生労働省「初診日を明らかにする書類を添えられない場合の取扱い」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc1413&dataType=1&pageNo=1
いつから請求できる?透析開始後3か月の取扱い
「人工透析を始めたら、3か月待たないと障害年金を請求できないのでしょうか」
すべての方が、透析開始から3か月待つ必要があるわけではありません。 初診日からどれくらい経過しているかによって、取扱いが異なります。
障害年金では、障害の程度を判断する「障害認定日」は原則として初診日から1年6か月を経過した日です。一方、人工透析には、透析開始から3か月を経過した日を認定日とする特例があります。
初診日から1年6か月以内に透析を始めた場合
初めて透析を受けた日から3か月を経過する日が、初診日から1年6か月以内であれば、その日が障害認定日となります。
例えば、初診日から半年後に透析を始めた場合、透析開始から3か月を経過した時点で認定日請求を検討できます。
一方、初診日から1年6か月を経過する日が、透析開始から3か月を経過する日より先に来る場合には、原則として初診日から1年6か月の日が障害認定日になります。その日時点の障害状態を確認することになります。
初診日から1年6か月を過ぎて透析を始めた場合
長年糖尿病などの治療を受け、初診日から何年も経ってから人工透析を始めた場合は、すでに通常の障害認定日が過ぎています。
当時は障害等級に該当しておらず、その後、透析を始めたことで原則2級の状態になった場合には、現在の状態による事後重症請求を検討できます。
この場合は、透析開始から改めて3か月待つ必要はありません。 初診日や納付要件などを満たし、請求書類が整えば、透析開始後に請求を進められます。
事後重症請求では、原則として請求日の翌月分から年金が支給されるため、提出が遅れると受給開始も遅れます。
また、原則として65歳の誕生日の前々日までに請求書を提出する必要があります。
初診日の調査に時間がかかる場合でも、現在の請求時期を意識して準備を進めることが大切です。
参考:日本年金機構「障害認定日」
https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/sagyo/ninteibi.html
参考:日本年金機構「障害年金講座」(14ページ・人工透析と事後重症請求)
過去の分も受け取れる?申請前に確認したいこと
人工透析を始めた方からは、過去に遡って障害年金を受け取れるのか、というご相談もあります。
ただし、現在透析を受けていることで原則2級に該当していても、過去の障害認定日にも同じ等級に該当していたとは限りません。
例えば、糖尿病の初診日から20年後に透析を始めた場合、障害認定日は原則として、その初診日から1年6か月後になります。
このような場合、障害認定日当時はまだ透析を受けていないことが多く、過去に遡って障害年金の認定を受けることは、実務上難しいケースが少なくありません。
なお、人工透析を受けていなくても、当時の腎機能障害の程度によっては認定対象となる場合があります。ただし、現在透析を受けているという事実だけで、過去の障害状態まで認められるわけではありません。
そのため、長年の治療を経て人工透析を開始した方については、現在の状態による事後重症請求を中心に検討することが多くなります。
また、障害認定日請求が認められた場合でも、実際に遡って支給される年金は、時効により原則として過去5年分までです。
過去の状態を調べることに時間をかけるあまり、現在の状態による請求が遅れないようにすることも重要です。
請求に向けては、まず分かる範囲で次の点を整理します。
- 透析開始日と透析方法(血液透析・腹膜透析)
- 腎不全の原因となった病気について主治医から受けている説明
- 最初の受診先とおおよその時期、その後の転院歴
- 過去のカルテ・健診結果・診察券などの所在
- 初診日当時の年金加入状況と、現在の勤務・生活状況
初診日を正確に覚えていない場合も、転居や勤務先の変化、過去の病院名などが手掛かりになることがあります。すべての資料がそろっていなくても、ご相談いただけます。
実際の請求では、腎疾患用の診断書、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書などを準備します。必要な書類は受診歴や請求方法によって異なりますが、初診日、治療の経過、透析開始日の記載に食い違いがないように整理することが大切です。
認定日請求と事後重症請求の違いについては、「障害年金の遡及請求の仕組み」もご参照ください。
参考:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150514.html
まとめ
人工透析を継続している方は、障害年金では原則として2級の認定対象です。働いていることだけで、請求を諦める必要はありません。
その一方で、実際の請求では、原因となった病気の初診日をどのように証明するかが重要になります。
糖尿病性腎症などで長年治療を続けた後に透析を始めた方は、初診の病院が廃院していたり、カルテが残っていなかったりする場合があります。それでも、後の病院の記録や健康診断結果などから、初診日を確認できることがあります。
最初の病院で証明書を取得できないという理由だけで、障害年金の請求を諦める必要はありません。 まずは、これまでの受診歴と残っている資料を確認することが大切です。
少しでもご参考にしていただけましたら幸いです。
人工透析による障害年金の請求について、古い初診日の証明や過去のカルテ、申請時期などにお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。