人工股関節・人工膝関節で障害年金はもらえる?3級の条件と初診日・手術時期
はる社会保険労務士事務所の特定社会保険労務士の宮岡です。
日頃から障害年金のご相談・申請支援に携わっています。
「人工関節を入れると障害年金3級になると聞いたのですが、受給できるのでしょうか」
「両方の股関節を人工関節にした場合、2級になるのでしょうか」
人工股関節や人工膝関節の手術を受けた方、これから手術を予定している方から、このようなご相談をいただくことがあります。
人工股関節・人工膝関節を挿入置換した場合、障害年金の認定基準では原則として3級とされています。ただし、手術を受ければ誰でも障害年金を受給できるわけではありません。
特に重要なのが、原因となった傷病の初診日と、その当時に加入していた年金制度です。また、手術の時期によって、障害認定日や請求方法も異なります。
この記事では、人工股関節・人工膝関節の認定基準、初診日の確認、手術時期による違い、両側に人工関節を入れた場合の取扱いについて、実際の相談で問題になりやすい点も交えて解説します。
目次
人工股関節・人工膝関節で障害年金はもらえる?
人工股関節や人工膝関節を挿入置換した場合、障害年金の認定基準では、原則として3級とされています。股関節・膝関節は、下肢の3大関節に含まれるためです。
例えば、人工関節の手術後に痛みが軽くなり、以前より歩きやすくなった場合でも、人工関節を挿入置換したこと自体が原則3級の認定基準に該当します。
そのため、手術後に歩けるようになったことや、仕事を続けていることだけを理由に、直ちに3級の対象外となるわけではありません。
ただし、障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があり、3級が設けられているのは障害厚生年金だけです。
人工関節の手術を受けたことと、実際に障害厚生年金3級を受給できることは別であり、初診日当時の年金加入状況などを確認する必要があります。
なお、人工関節の手術を予定している段階では、まだ「挿入置換したことによる原則3級」の取扱いは適用されません。また、骨切り術など人工関節の挿入置換とは異なる手術についても、同じ取扱いがそのまま適用されるわけではありません。
初診日の年金加入状況によって受給できるかが変わります
人工関節による障害年金の請求では、初診日当時に厚生年金へ加入していたかどうかが非常に重要です。
障害厚生年金は、原則として障害の原因となった傷病の初診日が厚生年金加入中にある場合に対象となります。一方、国民年金加入中に初診日がある場合は、基本的に障害基礎年金の対象となります。
| 初診日当時の加入状況 | 人工関節置換後の基本的な取扱い |
|---|---|
| 厚生年金に加入 | 障害厚生年金3級を検討できる |
| 国民年金に加入 | 障害基礎年金に3級はないため、原則3級の状態だけでは受給できない |
| 配偶者の扶養(国民年金第3号被保険者) | 障害基礎年金の対象となり、3級はない |
例えば、会社員として厚生年金に加入していたときに股関節の症状で初めて受診し、その後退職してから人工股関節の手術を受けた場合でも、初診日が厚生年金加入中であれば、障害厚生年金3級を検討できます。
反対に、初診日が国民年金加入中だった方が、その後会社員になり、厚生年金加入中に人工関節の手術を受けたとしても、手術時に厚生年金へ加入しているという理由だけで障害厚生年金の対象になるわけではありません。
手術を受けた時点や現在の年金加入状況ではなく、原則として初診日時点の年金加入状況で判断されます。
ただし、初診日が国民年金加入中であっても、人工関節の挿入置換後に2級以上の障害状態に該当する場合には、障害基礎年金を検討できる可能性があります。
また、初診日や障害状態の要件に加えて、所定の保険料納付要件を満たしていることも必要です。
実際のご相談でも、人工股関節の手術を予定しているものの、初診日当時は国民年金に加入していたため、原則3級の状態では受給が難しいと考えられるケースがあります。
「人工関節なら原則3級」という説明と、「ご本人様が実際に3級を受給できる」ということは、分けて考える必要があります。
参考:日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」
人工関節の初診日はいつ?過去の受診歴を確認します
変形性股関節症や変形性膝関節症では、最初に症状が出てから人工関節の手術を受けるまで、長い期間が経過していることがあります。そのため、障害年金の初診日の確認が難しくなる場合もあります。
手術日や病名が確定した日が初診日とは限りません
障害年金の初診日とは、原則として、障害の原因となった病気やけがについて初めて医師等の診療を受けた日をいいます。
人工関節の手術を受けた日や、「変形性股関節症」「変形性膝関節症」という病名が初めて確定した日とは限りません。
例えば、現在は人工股関節の手術を予定している方でも、何年も前から股関節の痛みや歩行時の違和感があり、整形外科を受診していた場合があります。
当時は病名がはっきりしていなかったとしても、現在の傷病と一連のものと判断されれば、過去の受診日が初診日となることがあります。
一方、以前に整形外科を受診していたからといって、その受診がすべて今回の傷病の初診日に当たるわけではありません。別のけがや異なる傷病による受診であれば、その関係を区別して確認する必要があります。
左右の股関節や膝関節で受診歴が異なる場合にも、原因傷病とそれぞれの受診経過を確認することが大切です。
また、古い医療機関に診療録が残っていない場合には、紹介状や診療情報提供書、診療・処方に関する記録など、残っている資料から受診歴を確認していくことがあります。
初診日が数年、あるいは十数年前にさかのぼる場合には、手術の準備とは別に、初診日の確認を早めに進めることが重要です。
初診日の基本的な考え方は、障害年金の初診日はいつ?確認するときのポイントでも解説しています。
臼蓋形成不全など、先天的な要因がある場合
変形性股関節症では、臼蓋形成不全など、股関節の形状に先天的な要因があると説明される場合があります。
「生まれつきの問題だから、初診日も出生時になるのでしょうか」と疑問を持たれる方もいらっしゃいますが、先天的な要因があることだけで、すべての方の初診日が出生時になるわけではありません。
日本年金機構の「かけはし」第69号では、先天性股関節脱臼について、完全脱臼したまま生育した場合は出生日を初診日とする一方、青年期以降に変形性股関節症を発症した場合は、その発症後に初めて診療を受けた日を初診日とする取扱いが示されています。
ただし、これは先天性股関節脱臼に関して示された取扱いです。臼蓋形成不全などのすべてのケースについて、同じ結論になると一律に判断することはできません。
実際には、幼少期の治療歴、症状が現れた時期、医師の診断内容、その後の受診経過などを確認する必要があります。
特に、初診日の判断によって障害基礎年金か障害厚生年金かが変わる場合には、慎重な確認が必要です。
参考:日本年金機構「かけはし」第69号(5ページ・初診日の取扱い)
人工関節の手術日が障害認定日になるのはいつ?
障害年金の障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を経過した日です。
ただし、初診日から1年6か月以内に人工関節・人工骨頭を挿入置換した場合には、その挿入置換日が障害認定日となる特例があります。
初診日から1年6か月を超えて手術した場合は、取扱いが異なります。
初診日から1年6か月以内に手術した場合
例えば、初めて整形外科を受診してから1年以内に人工股関節や人工膝関節の挿入置換術を受けた場合、その手術日が障害認定日となります。
この場合、初診日から1年6か月が経過するまで待つ必要はなく、人工関節の挿入置換日を基準に障害年金の請求を検討できます。
障害認定日請求が認められた場合には、原則として障害認定日の属する月の翌月分から年金が支給対象となります。
ただし、初診日の年金加入状況や保険料納付要件など、ほかの受給要件も満たしている必要があります。また、診断書には対象となる時点の障害状態を記載してもらう必要があるため、どの時期の診断書を用意するかを事前に確認することが大切です。
初診日から1年6か月を超えて手術した場合
一方、初診日から何年も経過して人工関節の手術を受けた場合には、その手術日が自動的に障害認定日になるわけではありません。
この場合、原則として初診日から1年6か月を経過した日が障害認定日となり、その当時の障害状態と、人工関節を挿入置換した後の障害状態を分けて確認します。
障害認定日当時にも所定の障害状態に該当していた場合には、当時の診断書などを取得できれば、障害認定日による請求を検討できることがあります。ただし、実際にさかのぼって受け取れる年金は、時効により原則として過去5年分が限度です。
一方、障害認定日当時は等級に該当せず、その後に人工関節を挿入置換して3級相当の状態となった場合には、障害厚生年金の事後重症請求を検討することになります。
事後重症請求では、原則として請求した月の翌月分から年金が支給されます。 手術から長期間経過してから請求しても、手術を受けた月まで当然にさかのぼって受給できるわけではありません。
また、事後重症請求は、原則として65歳の誕生日の前々日までに請求書を提出する必要があります。
過去にさかのぼる請求の基本的な考え方は、障害年金は過去にさかのぼって受給できる?遡及請求の仕組みでも解説しています。
このように、手術時期によって障害認定日や請求方法、年金の受給開始時期が異なるため、初診日と手術日の両方を確認することが重要です。
参考:日本年金機構「かけはし」第94号(13~14ページ・障害認定日の特例)
両側に人工股関節・人工膝関節を入れたら2級になる?
人工関節のご相談では、片側だけでなく、両側の股関節や膝関節に人工関節を入れる場合についてもお問い合わせいただくことがあります。
ここで注意したいのは、両側に人工関節を挿入置換したからといって、自動的に障害年金2級になるわけではないということです。
認定基準では、一下肢の3大関節のうち1関節以上に人工関節等を挿入置換した場合だけでなく、両下肢にそれぞれ人工関節等を挿入置換した場合についても、原則3級とされています。
ただし、手術後も重い機能障害が残り、所定の認定基準に該当する場合には、さらに上位の等級が認定されることがあります。
そのため、2級以上を検討する場合には、人工関節の数だけでなく、手術後に残っている下肢の機能障害を確認する必要があります。例えば、関節の可動域や筋力、歩行、立ち上がり、階段の昇り降りなどの状況が重要になります。
一方、歩行時に痛みがある、階段の昇り降りがつらいといった事情があるだけで、直ちに2級に該当するわけではありません。
日本年金機構の資料でも、人工関節を挿入置換した数によって等級を決めるのではなく、挿入置換後の障害の程度によって上位等級に該当するかを判断することや、障害の悪化が疼痛のみによるものではないかを確認することが示されています。
特に初診日が国民年金加入中だった方の場合、両側に人工関節を入れたとしても、2級以上の障害状態に該当しなければ、障害基礎年金の受給は難しいことになります。
人工関節の数と、障害年金の等級を単純に結び付けないことが大切です。
参考:日本年金機構「かけはし」第94号(16ページ・人工関節と上位等級)
診断書と申請時期で注意したいこと
人工股関節・人工膝関節による障害年金の請求では、一般的に「肢体の障害用」の診断書を使用します。
診断書には、人工関節・人工骨頭の挿入置換部位や手術日などを記載する項目があります。また、上位等級を検討する場合には、関節可動域や筋力、日常生活動作などの所見も重要です。
請求にあたっては、次の点を整理しておく必要があります。
- 初診日と、その当時の年金加入状況・保険料納付要件
- 人工関節の挿入置換部位と手術日
- 初診日から手術日までの受診・治療経過
- 障害認定日当時と現在の障害状態
- 必要な時期の診断書を作成してもらえる医療機関
- 初診日を確認する受診状況等証明書などの資料
特に、手術を受けた医療機関が初診の医療機関とは限らず、初診日を証明するために古い受診記録の確認が必要となることがあります。
また、障害認定日請求と事後重症請求では、診断書に記載すべき障害状態の時期が異なります。診断書を医師に依頼する前に、初診日・障害認定日・請求方法と対象時期を確認しておくことが重要です。
なお、身体障害者手帳と障害年金は別の制度です。手帳の等級がそのまま障害年金の等級になるわけではなく、手帳を持っていないことだけで障害年金を請求できなくなるわけでもありません。
詳しくは、障害者手帳と障害年金の違いをご参照ください。
まとめ
人工股関節・人工膝関節の挿入置換は、障害年金の認定基準では原則3級とされています。ただし、3級は障害厚生年金に設けられた等級であり、初診日が国民年金加入中だった場合には、原則3級の状態だけでは障害基礎年金を受給できません。
また、人工関節の手術日が必ず障害認定日になるわけではなく、初診日から手術までの期間によって請求方法が変わります。
両側の股関節や膝関節に人工関節を入れた場合も原則3級であり、2級以上に該当するかどうかは、手術後に残っている機能障害の程度によって判断されます。
人工関節の障害年金では、初診日、初診日当時の年金加入状況、手術時期、手術後の障害状態を整理したうえで、請求の見通しを検討することが大切です。
少しでもご参考にしていただけましたら幸いです。
人工股関節・人工膝関節の手術を予定している方や、すでに手術を受けており、障害年金の請求についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。