傷病手当金と障害年金は両方もらえる?支給調整・返還・請求時期を解説
はる社会保険労務士事務所の特定社会保険労務士の宮岡です。
日頃から障害年金のご相談・申請支援に携わっています。
傷病手当金を受給している方から、次のようなご相談をいただくことがあります。
「障害年金を受給すると、傷病手当金を返さなければいけないのですか」
同じ病気やけがによる障害厚生年金が過去に遡って決定し、その期間に傷病手当金を受け取っていた場合は、傷病手当金の一部または全部を返還することがあります。
この場合、返還するのは障害年金ではなく、すでに受け取った傷病手当金です。
一方、障害基礎年金だけを受給する場合は、傷病手当金との支給調整の対象にはなりません。 同じ病気やけがであっても、それぞれの受給要件を満たしていれば両方を受け取れます。
なお、障害厚生年金でも、別の病気やけがによる場合などは原則として調整されません。また、障害厚生年金が決定しただけで、必ず傷病手当金の返還が必要になるわけではありません。
この記事では、両方受け取れる場合と支給額が調整される場合の違いを、具体的な金額と図で説明します。また、傷病手当金を受給しながら障害年金の請求を進めても問題ないことや、申請時期をどう考えるかについても解説します。
目次
傷病手当金と障害年金は両方もらえる?
傷病手当金と障害年金は、要件を満たせば両方の支給対象になることがあります。ただし、両方が対象になっても、それぞれの金額をそのまま受け取れるとは限りません。
傷病手当金は、会社員などが加入する健康保険の給付です。業務外の病気やけがで仕事に就けず、給与を十分に受けられない場合などに、休業中の生活を支えます。
障害年金は、病気やけがによって一定の障害の状態にある方を支える年金です。初診日に加入していた年金制度などによって、障害基礎年金や障害厚生年金の対象となります。仕事を休んでいることだけで支給が決まる制度ではありません。
どちらの年金が対象となるかは、原則として初診日に加入していた年金制度などによって決まり、金額を比べて自由に選べるものではありません。傷病手当金との関係では、「障害基礎年金だけなのか」「障害厚生年金があるのか」が重要になります。
どのような場合に支給調整される?
| 障害年金の受給状況 | 傷病手当金との調整 |
|---|---|
| 障害基礎年金のみ | 調整なし |
| 同じ病気やけがなどによる障害厚生年金がある | 調整あり |
| 別の病気やけがによる障害厚生年金がある | 原則として調整なし |
障害基礎年金だけの場合は、調整されません
障害基礎年金のみを受給している場合は、同じ病気やけがによる傷病手当金であっても、この併給による支給調整はありません。それぞれの支給要件を満たしていれば、両方を受け取れます。
同じ病気やけがによる障害厚生年金がある場合は、調整されます
傷病手当金と同じ病気やけが、またはそれによって生じた病気やけがについて障害厚生年金を受ける場合は、傷病手当金の額が調整されます。
障害厚生年金の1級・2級では、原則として障害基礎年金も一緒に支給されます。 この場合、傷病手当金との調整は両方を合わせた金額で計算します。3級の場合は障害厚生年金のみの金額で計算します。
病名が違っていても、病気の関係によって判断が変わることがあります。ご自身で区別が難しい場合は、加入先の健康保険に確認しましょう。なお、同じ病気やけがなどについて、一時金である「障害手当金」を受けた場合にも、傷病手当金との調整があります。
参考:厚生労働省「健康保険法」第108条(他の給付との調整)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84024000&dataType=0&pageNo=2
傷病手当金と障害年金の金額はどう調整される?
金額の比較で見てみましょう
傷病手当金を1日6,000円、30日分で18万円受給する方を例に比較します。令和8年度の障害基礎年金2級は月額約7.1万円、障害厚生年金3級の最低保障額は月額約5.3万円です。ここでは仕組みを分かりやすくするため、基礎2級は月7万円、厚生3級は月5万円と丸めた概算で説明します。
傷病手当金だけなら 18万円
① 障害基礎年金2級のみ:合計25万円
傷病手当金 障害年金
縦の点線が18万円の位置です。 ①の傷病手当金18万円の終点と、②の合計18万円の終点が一致しています。
※金額は制度を分かりやすくするための概算です。令和8年度の実額は、障害基礎年金2級が年847,300円(昭和31年4月2日以後生まれ・子の加算なし)、障害厚生年金3級の最低保障額が年635,500円(同日以後生まれ)です。3級の最低保障額は3級に設けられた制度です。実際には年金額や支給対象日数、端数処理などで金額が変わります。
参考:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」(令和8年度)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150514.html
参考:日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」(令和8年度・3級の最低保障額)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-02.html
①は傷病手当金18万円に障害基礎年金7万円が加わり、合計25万円です。②は障害厚生年金3級の5万円を受け取る分だけ傷病手当金が13万円に減り、合計18万円のままです。
このように、法定の支給調整そのものによって、同じ期間の受取総額が傷病手当金だけの場合より減る仕組みではありません。 ただし、障害年金が認められても、傷病手当金と重なる期間の合計額が増えない場合はあります。
傷病手当金と支給調整の計算方法
傷病手当金は、休業前のお給料の約3分の2が目安です。正確には、原則として支給開始日の属する月を含む直近の継続した12か月間の標準報酬月額の平均を30で割り、その3分の2として計算します。加入期間が12か月に満たない場合は、別の計算方法になります。
例えば、標準報酬月額の平均が27万円なら、傷病手当金は1日6,000円、30日分で18万円です。休業前の報酬によっては、障害年金より傷病手当金の方が高くなることもあります。
調整の対象となる場合は、障害年金の年額を360で割った日額と、傷病手当金の日額を比較します。傷病手当金の方が高ければ差額が支給され、年金の日額が同額以上なら、その日の傷病手当金は支給されません。
先ほどの②は障害厚生年金3級を月5万円とした例です。年額60万円を360で割ると、年金の日額は約1,667円となります。傷病手当金の日額6,000円との差は約4,333円で、30日分では約13万円です。
参考:協会けんぽ「傷病手当金」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/injury_and_sickness_allowance/
障害年金が遡って決定された場合、返還は必要?
「障害年金がまとめて振り込まれた場合、そのまま使ってもよいのでしょうか」
過去の期間について障害厚生年金が決定し、その期間に同じ病気やけがによる傷病手当金を受けていた場合は、後から調整が必要になります。すでに支給された傷病手当金のうち、調整後の金額を超える部分が返還の対象です。
返還までの流れ
同じ病気やけがなどによる障害厚生年金と、支給対象期間が重なった場合
- 傷病手当金を受給
- 障害厚生年金が過去に遡って決定
- 健康保険が、重なる支給対象期間と年金額を確認
- 返還が必要な傷病手当金の金額を計算・精算
重なった期間の傷病手当金を必ず全額返すわけではありません。
例えば、上の②で、先に傷病手当金18万円を受け取っていた場合です。その後、同じ30日間について障害厚生年金3級の支給が決まると、次のように調整されます。
- 受け取っていた傷病手当金:18万円
- 調整後の傷病手当金:13万円
- 返還する傷病手当金:5万円
障害年金の決定通知などが届いたら、傷病手当金を支給した健康保険へ連絡し、必要な届出と返還の有無を確認しましょう。返還額が確定するまでは、遡って支給された年金をすべて使わず、精算に備えておくことが大切です。
なお、傷病手当金の受給終了後に障害年金を請求しても、年金が過去に遡って決定すれば調整が生じることがあります。請求日や振込日ではなく、どの期間の給付なのかで確認します。
参考:全国健康保険協会「傷病手当金の返納が必要かも?」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/kochi/public_relations/004/
傷病手当金の受給中、障害年金はいつ請求すればよい?
同じ「1年6か月」でも、数え始める日は異なります
法定の傷病手当金は、支給開始日から通算1年6か月が支給期間です。一方、障害年金の障害認定日は、原則として病気やけがで初めて医師などの診療を受けた初診日から1年6か月を経過した日です。障害年金では、傷病によってそれより早い日が障害認定日となる例外もあります。
同じ「1年6か月」でも起点が異なります
傷病手当金
支給開始日 → 法定給付は通算1年6か月
障害年金
初診日 → 原則1年6か月後が障害認定日
起点を比較した概念図です。傷病手当金には、健康保険組合による独自の延長給付がある場合があります。
初診日と傷病手当金の支給開始日は、必ずしも一致しません。そのため、傷病手当金の終了時期と、障害年金を請求できる時期が同じになるとは限りません。
初診日の確認については、「障害年金の初診日はいつ?確認するときのポイント」もご参照ください。
また、健康保険組合によっては、法定の1年6か月が終わった後も、独自の付加給付として傷病手当金に相当する給付を受けられる場合があります。 支給期間や障害年金との調整方法は組合ごとに異なるため、加入先への確認が必要です。
なお、障害厚生年金との調整で傷病手当金が全額不支給となった期間は、通算する支給期間を減らしません。差額が支給された期間は算入されます。退職後の継続給付には別途要件があるため、退職を予定している場合も健康保険に確認が必要です。
参考:厚生労働省「傷病手当金の支給期間の通算化に関するQ&A」(問5・問7・問11)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6389&dataType=1&pageNo=1
参考:健康保険組合による延長傷病手当金付加金の例(みずほ健康保険組合)
https://www.mizuho-kenpo.or.jp/member/benefit/rest_a.html
請求の方法によって、遅れた場合の影響が変わります
障害認定日に要件を満たしていた場合は、「障害認定日による請求」が考えられます。認められれば、原則として障害認定日の翌月分から受給できます。ただし、請求が遅れた場合に実際に遡って受け取れるのは、時効により原則5年分までです。
障害認定日には該当せず、その後悪化して要件を満たした場合などは、「事後重症による請求」が考えられます。この場合は原則として請求日の翌月分から支給されるため、請求が遅れると受給開始も遅れます。また、事後重症の請求書は、65歳の誕生日の前々日までに提出する必要があります。
認定日請求と過去分の受給については、「障害年金は過去にさかのぼって受給できる?遡及請求の仕組み」でも解説しています。
参考:日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-02.html
傷病手当金を受給しながら請求しても問題ありません
傷病手当金を受給している間でも、障害年金の請求手続きを進めることに問題はありません。 同じ傷病による障害厚生年金と支給期間が重なる場合は調整されますが、法定の支給調整によって、同じ期間の受取総額が傷病手当金だけの場合より減る仕組みではありません。
例えば、傷病手当金18万円を受け取った後、同じ30日間について障害厚生年金5万円が認められた場合、傷病手当金5万円を返還しても、その分の障害年金を受け取るため、合計は18万円のままです。
したがって、返還が心配だからという理由だけで、障害年金の請求を控える必要はありません。 むしろ傷病手当金の支給が終了した後を見据えて、初診日や診断書などの確認を進めておくことが大切です。
経済的に提出を急ぐ必要性が低い場合もあります
一方、傷病手当金の方が障害厚生年金より高く、支給調整によって重複期間の合計額が変わらない方もいらっしゃいます。その場合、重複期間の受取額だけを見れば、障害年金の請求を急いでも金額が増えないことがあります。
一方、事後重症請求では請求日の翌月分からの支給となるため、提出が遅れると受給開始も遅れます。また、障害基礎年金だけを受け取る場合や、障害年金の方が傷病手当金より高い場合には、重複期間中でも受取総額が増えることがあります。
つまり、「受給中に請求してよいか」と「いつ提出するのが適切か」は別の問題です。請求方法や傷病手当金の終了予定、年金の時効、診断書の準備に必要な時間などを踏まえて、請求時期を判断します。
傷病手当金の受給終了を待たず、必要な確認や準備を進めておくことも考えられます。
まとめ
傷病手当金と障害年金の関係では、次の点を押さえておきましょう。
- 障害基礎年金のみの場合は、傷病手当金との支給調整はありません。
- 同じ病気やけがなどによる障害厚生年金がある場合は、調整されます。障害基礎年金も受けているときは、その額も含めて計算します。
- 障害年金が過去に遡って決定した場合、重複した期間の傷病手当金について返還が必要になることがあります。
- 傷病手当金の受給中でも請求を進めて問題ありません。提出を急ぐ必要性は、請求方法や傷病手当金の支給期間などによって異なります。
傷病手当金を受給しているからという理由で、障害年金の請求をためらう必要はありません。 ただし、重複期間の受取総額が変わらず、経済的に提出を急ぐ必要性が低い場合もあります。ご自身の支給状況や請求方法を確認し、適切な時期を検討することが大切です。
少しでもご参考にしていただけましたら幸いです。
傷病手当金を受給中の障害年金の請求について、返還や申請時期などにお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。